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半導体不足による自動車の減産について

 自動車業界では半導体不足によって減産を余儀なくされていますが、不足している原因は一体どこにあるのでしょうか。

 一因として挙げられるのは、一昨年から立て続けに2社、旭化成とルネサスエレクトロニクスの半導体工場で火災が発生し、生産がストップしたことによって国内の流通が滞ったことです。

 しかし、これは一過性の要因であって根本的な問題は別にあります。

 そもそも半導体とは「金属などの導体とゴムなどの絶縁体の中間の抵抗率を持つ物質」の事を指した総称です。この半導体の受託生産の世界シェアは台湾が約60%を占めています。その代表的な企業は何と言ってもTSMCです。この1社だけで世界シェアの約50%を担っています。続いて韓国が約20%。有名なところではサムスン電子です。韓国では近年、半導体の生産を基幹産業として位置付けており、TSMCに追いつけ追いこせとばかりに多額の投資によって生産体制を強化しています。

 今から2~3年前の日韓関係が冷え切っていた時期、文在寅大統領は支持率アップを狙って慰安婦問題や元徴用工問題、新日鉄の資産差し押さえ、ジーソミアの破棄など次々と日本を牽制しました。これに対して日本政府は半導体やディスプレイに使用される必須素材3品目の韓国への輸出に関する規制強化を実施。遺憾の意を伝えるにとどまるだろうと思っていた韓国は一気にトーンダウンしました。それだけ韓国では半導体事業が重要な位置づけとなっています。

 では日本のシェアはどの程度かというと、10%未満、6~8%程度と言われています。代表的なところでは最初に挙げたルネサスエレクトロニクスや旭化成ですが、世界ランキングのトップ10に日本の企業は1つも入っていません。

 最初の話に戻りますが、なぜ世界シェアわずか6~8%程度の日本企業の半導体工場がストップしたくらいで自動車の生産がストップしてしまうのでしょうか。日本の工場がストップしたら台湾や韓国から輸入したらいいじゃないかという話になると思いますが、これには世界に蔓延している新型コロナウイルスが関係してきます。

 新型コロナウイルスによって世界は一変しました。ニューノーマル、新しい生活様式とも呼ばれ、その象徴としてテレワーク、リモート会議、巣ごもり需要など、これまでにない新しいビジネススタイルや娯楽が浸透しました。これらに共通すること、それは新しい電子機器です。テレワークやリモート会議にはスマホやパソコンが必須です。巣ごもり需要も同様にスマホやパソコン、そしてニンテンドースイッチやプレイステーションなどのゲーム機器。そして、これらの機器には全て半導体が使われています。新型コロナウイルスによってスマホやゲーム機の需要が増し、自動車業界に半導体が回ってこなくなったというのが現状です。

 しかし、ここでさらに疑問が生じます。なぜ自動車業界に半導体が回ってこないのか。需要があるなら工場を増設してバンバン作ったらいいじゃないか。それにスマホは最新の機種でも10万円前後、対して自動車は100万円から200万円、300万円とスマホの何十倍もの価格なのだから、自動車を売った方が儲かるのではないか、と。

 ここからが問題の本質です。確かに本体価格だけを見れば自動車の方が何十倍も高額ですが、自動車で使われている半導体はスマホやパソコンと比べて2ランクくらい下のものを使用していると言われています。なぜかというと、それで十分対応できるからです。自動車の部品で半導体は必須ですがグレードは低くてもかまわないという事です。例えるならPS5とPS3くらいの違いでしょうか。つまり、半導体メーカーからすれば自動車用よりもスマホ用に製造した方が儲かるということです。

 そして、それと並行して保有台数と保有サイクルが関連してきます。自動車は富裕層の人々を除いて、ほとんどの人が持っていても1台。都心部では持っていない人も多いと思います。対してスマホやパソコンは、ほとんどの人が1台は持っていると思います。さらにはスマホとパソコン、プレイステーション、ニンテンドースイッチなど1人で数台保有している人も多いと思います。そして、保有サイクルについても、自動車の買い替えサイクルは平均で11年と言われています。一方でスマホはだいたい2年。買い替えるタイミングは2年分割が終わったあたりでしょうか。

 半導体メーカーからすれば、PS5を作れば作るだけ次々と売れていくのに、今更PS3なんか作っていられませんよ、というところでしょうが、しかしながら自動車産業は世界的にも基幹産業として位置づけられており、全く無視するわけにはいきません。自動車産業が停滞すれば、それは世界経済の停滞を意味するわけで、それは巡り巡ってスマホやゲーム機の売り上げにも影響してきますから、全体生産の何割かを自動車向けに生産しています。

 一方でこれから先の展望については明るい兆しもあります。それは、CASE、MaaSといった新技術の開発に伴って半導体もより高度なものが求められるようになり、半導体メーカーもより高度で儲かる半導体を自動車向けに増産することが予想されます。そうなれば需給の改善が見込まれ、自動車の安定した生産が持続可能になるかもしれません。

 もっとも、新技術による性能と同時に上昇した価格は、しっかりと車両本体価格に上乗せされるのでしょうけど・・・